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はじめに
国民健康・栄養調査の結果を過去に遡ってみると,日本人の血圧は1960年代中盤から漸減し,脳卒中発症の減少とよく一致している(図1)1,2).一方,平成19年国民健康・栄養調査の結果によると,収縮期血圧140mmHg以上,または拡張期血圧90mmHg以上,もしくは降圧剤を服用している者,すなわち高血圧症の有病者の割合は40歳以上男女で50.4%と報告されている.さらに,収縮期血圧130mmHg以上,または拡張期血圧85mmHg以上で高血圧症でない予備群の者は15.7%で,有病者・予備群以外の者はわずかに33.9%であることが示された2).すなわち,高血圧症は現在においてもわが国における最も頻度の高い疾患の一つと言える.
比較的太い動脈は,左心室の収縮期における受動的膨張と拡張期での弾性反動によって,左心室駆出による拍動を緩衝し,小動脈,毛細血管にて血液をスムーズに流し,末梢の器官に対するダメージを防ぐという役割を担っている.この緩衝機能が減少(スティフネスの増加)する病態を動脈硬化と言う.さらに,内皮と平滑筋の間にコレステロールや脂肪が蓄積し,動脈が肥厚し硬化する病態を粥状動脈硬化と言う.
高血圧症や動脈スティフネスの増加および粥状動脈硬化は,左心室過負荷や心筋肥大など,全身の心臓血管機能に好ましくない影響を及ぼす.さらに疫学調査の結果から,これらは将来の心臓血管病発症の重要な危険因子の一つであることが示されている.
近年,高血圧症や動脈硬化を予防・改善するうえで,身体運動を中心にした生活習慣の改善が頻繁に提唱されている.身体運動には,ジョギングやサイクリングなどの有酸素運動と,ウェイトリフティングなどのレジスタンス運動(筋力トレーニング)といった異なる運動様式があり,それぞれの運動様式による血圧・動脈スティフネスや動脈壁肥厚に及ぼす応答・効果に関する検討が行われてきた.そこで本稿では,有酸素運動および筋力トレーニング運動による血圧および動脈スティフネスの応答とトレーニング効果に関して論説する.
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