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初診時―そして自宅へ
車いすで初めてリハビリテーション部の診察室にこられたのは,Aさん(男性)が72歳の時でした.Aさんは街で写真屋をしていましたが,57歳で腎細胞癌がみつかり,以後さまざまな治療を受けて15年間闘病生活を続け,満身創痍ながらも自宅で独歩の生活をされていました.通院は車を運転して出かけられる状態でした.今回は急性腎不全のため緊急入院しました.透析,除水後,内シャントを作成(2回目に成功)し,状態が落ち着いたとのことで退院に向けてのリハビリテーション受診でした.病室内であれば歩けるだけの体力があり,入院してから4か月経過していましたが,下肢の筋力低下は軽度でハーフスクワットも可能でした.リハビリテーションはこれまで経験がなかったのですが,何度も病気との修羅場を乗り越えてきた自信からか,意欲的に希望され,週2回の透析に合わせた通院リハビリテーションについても言及していました.とうに病気の告知はされており,本人,家族ともにすでにDNR(do not resuscitate:緊急時の心肺蘇生の拒否)の方針が確認されていました.
しかし,この時が体力の最後のピークだったのです.耐久性訓練が軌道に乗りかけた2週間後に,膵頭部転移腫瘍部からの出血のため,貧血が進行し,輸血も間に合わない状態となりました.介助でやっとトイレ往復できる状況で「立てんようになった」と寂しげな一言があり,本人が希望するまでリハビリテーションはお休みとしました.さらに2週間後にライン管理が取れると,伝い歩きでトイレに行く練習からリハビリテーションを始めることになり,その状態のまま1か月後に介護保険の申請をして自宅に戻りました.
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