Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
文明の成立と自然環境―華北における巨大帝国の出現
高橋 正雄
1
1筑波大学障害科学系
pp.894
発行日 2010年9月10日
Published Date 2010/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552101859
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中国史を学んでいて不思議に思うのは,中国を支配した統一王朝の多くが,気候が温暖で土地の生産性も高い華南ではなく,自然環境の厳しい華北に生まれていることである.だが,こうした歴史的な事情について,川勝義雄の『中国の歴史 第3巻』(講談社,1974年)では,次のような生態学的な説明がなされている.
そもそも中国は,淮水を境に華北の乾燥地帯と華南の湿潤地帯に分けられる.このうち華北では,乾燥度が高いので森林の発育が十分ではなく,ある程度森林が生育していても一旦伐採されると再生するのはむずかしい.そのため,華北では鬱蒼たる森林に妨げられることがないから平原の見通しがよく,集団の移動も容易である.また,華北では治水のむずかしい黄河の水を利用することができないため,小規模の灌漑と天水を利用する小規模灌漑天水農耕が中心になった.したがって,華北では降雨量のわずかな変動が作物の生育に決定的に影響するので,豊作と凶作の変化も著しい.ある地方では適度の雨が降ったのに他の地方では降らなかったというような理由で,地域ごとの豊凶の差が出やすいのである.こうした地域間の豊凶の差を相殺するためには,全体を一つの社会として統一的に調整する巨大帝国が必要になる.すなわち,「華北における地理的,生態学的諸条件の中で,古代中国人はもろもろの困難を主体的に克服し,調整するために,巨大な帝国を形成し,生きるための知恵を積み上げて高度の文明をつくりあげた」のである.
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