Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
はじめに
脳損傷者の社会参加の手段として,自動車を自ら運転することの意義は大きい.しかし,身体障害に加え,注意障害,遂行機能障害,半側空間無視などの高次脳機能障害の合併により,運転を断念しなければならない例が多い.そこで,自動車の運転において賦活化される脳神経活動領域を明らかにすることは,脳損傷者の運転能力を客観的に評価し,指導していくうえで重要と考えられる.
脳神経の活動を視覚的に捉える脳機能画像技術として,現在,臨床面および研究面でもっとも汎用されているのが,機能的MRI(functional MRI;fMRI)と機能的近赤外分光法(functional near-infrared spectroscopy;fNIRS)である.fMRIは,脱酸素化ヘモグロビン(deoxy-Hb)濃度の低下によるプロトン信号強度の差(blood oxygenation level dependent;BOLD効果)を画像化している.すなわち,神経活動に伴う脳血流の増大によるdeoxy-Hb濃度の低下を検出している1).一方,fNIRSは,生体にもっとも通過しやすい近赤外光を照射し,酸素化Hb(oxy-Hb),deoxy-Hbのそれぞれの吸光量の差から,直下脳内のoxy-Hb,deoxy-Hbの変化量を求めている2).いずれも,神経活動そのものではなく,それに伴う脳血流の相対的な変化を検出している.
fMRIの時間分解能(どれくらい短い時間に脳活動を測定できるか)は数秒単位であるが,空間分解能(どれくらい狭い領域の脳活動を測定できるか)は数mm~10mmと優れているので,機能局在を精査するにはよい.しかし,臥位で頭部を固定しなければならないという制限がある.一方,fNIRSは,時間分解能は百ミリ秒単位と優れているが,空間分解能は低く大脳深部や小脳などは評価できない.したがって,大脳皮質の活動の概略をリアルタイムに捉える場合に適している.また,身体的拘束はほとんどなく,自然な座位や立位での計測が可能という利点がある.
本稿では,自動車運転というダイナミックな活動時の脳神経活動を捉えるために,拘束性のきわめて低いfNIRSを用いた結果を紹介する.
Copyright © 2010, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.