Sweet Spot 映画に見るリハビリテーション
「夕凪の街 桜の国」―平和へのチカラとなる涙の一滴
二通 諭
1
1石狩市立花川南中学校
pp.199
発行日 2008年2月10日
Published Date 2008/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552101188
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昭和34年は「ALWAYS 続・三丁目の夕日」のおかげもあって“一寸は誇れる世界”に昇格したが,まあ,そのことはいずれ述べよう.ここで重要なのは34年当時小学校3年生だった私が見た映画のなかに,「夜霧に消えたチャコ」があったことだ.タイトルは言わずと知れたフランク永井のヒット曲で本人も出演している.なぜ重要か.私にとって初めて耳にしたショッキングな言葉があったからだ.それは「原爆病」.愛し合う男と女がいて,しかし,女は被爆者で,原爆病を発症するはずだと思い込んでいて,男のもとを去っていくという話だ.私は家に帰るとすぐに「お母さん,原爆病ってなに?」と聞いたが,母がどう答えたかについての記憶はない.それ以降,幾多の映画,テレビドラマ,書物,マンガを通して,原爆とそれがもたらす後遺症についての「知識」を「常識」として蓄えていった.
ところが,07年の極上作品「夕凪の街 桜の国」(監督/佐々部清)公開時に,久間防衛大臣から“原爆投下しょうがない論”が飛び出した.深刻なのは,それが叩かれていてもなお,“久間発言は正しかった.原爆が落ちなかったら北海道の半分はソ連に占領されてたんだ”と酒の席で怪気炎をあげる同世代の輩がいたことだ.あたかもアメリカが北海道民を救うために広島,長崎に原爆を落としたかのようなことを被爆国の国民が言うのだから情けない.もちろん,このような状況にあるからこそ本作に高い価値がある.
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