連載 医者ときどき看護師・4
桜
平林 大輔
1
1(社)地域医療振興協会・東京北社会保険病院
pp.295
発行日 2008年4月10日
Published Date 2008/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1686101177
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- 文献概要
毎年,桜の花を見ると思い出す人がいる。それほど深い関わりのあった人ではない。顔はおぼろげになってしまったし,今となっては名前すらすぐには浮かんでこない。そんな,30代半ばの「彼」と出会ったのは,山のなかのとある緩和ケア病棟でのことだった。
当時の私は医学生で,2週間の臨床実習に来ていた。病棟はほんわかとした春の空気につつまれていて,そんななかで患者さんの話を聴いたり,散歩をしたりしていると,まるで何かの余韻に浸るような,非常にゆったりとした感覚すら覚えた。だが,そんな病棟の奥にある彼の部屋を訪ねると,自分がその場所の一面しか見ていなかったことを思い出させられた。そして,一見ゆったりとした時の流れのなかでも一秒一秒は確実に刻まれていく,そんなことを強く意識させられた
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