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1950年に発表されたCWスミスの『フロレンス・ナイチンゲールの生涯』(武山満知子・小南吉彦訳,現代社)を読むと,60代のナイチンゲールはその多くの時間を,痴呆に陥った実母の介護に費やしていたことがわかる.
ナイチンゲールの母親ファニィは,元々娘との折り合いが良いほうではなかったが,78歳になった1866年頃から痴呆の症状が出現したようで,ナイチンゲールが1866年8月に書いた手紙には,「愛する母上がこのように老残の身を晒している今ほど,い・じ・ら・し・く・私の心を動かしたことはありません.母は以前に比べてずっと柔和で,思慮深くなっています」,「母は記憶力がぼけたこと以外,以前とたいして変わったとは思いません.……日常の習慣もますますだ・ら・し・な・く・なっており,夕方5時か6時まではほとんど起きてもこず,それから馬車で出かけていくのです」と,記憶障害や人格変化を思わせる言動が記されている.また,それから2年後の1868年9月には,80歳になった母親のことを「もうすっかり齢ですが,私の憶えているかぎり,以前よりずっと明るく,また優しくなりました.記憶力の方はほとんど駄目ですが,私にとっては昔よりもはるかに愛すべき人,尊敬できる人になっています」と書いていて,痴呆に伴う親子関係の改善といった現象もみられたようであるが,そんなナイチンゲールの母親については,より直截的に痴呆を示す次のような記載も認められる.「興奮しやすくなっていたファニィは普段以上に扱いにくかった.(中略)ファニィを説得して昼食をとらせるのに,三回も部屋を変えて食事を運び直さねばならなかった」,「視力も記憶力もすっかり衰えて,幼児のようになってしまった」,「もう完全に幼児のようになって,自分がどこにいるのかも判別できない」等々.
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