医学の進歩をになった人々
セオボールド・スミス・2
飯田 広夫
1
1北大・細菌
pp.50-52
発行日 1974年11月1日
Published Date 1974/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543200620
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テキサス熱
スミスは相変わらずワシントンの畜産局の建物の屋根裏にある,狭い実験室で働いていた.そして,彼の最も輝かしい業績のひとつとなったテキサス熱(Texas cattle fever)の研究が,ここで始められることになる.もう一度ポール・ド・クライフの"細菌の猟人"の記述を借りよう.
"南部の牧牛者が北部のウシを買う.ウシは運搬車から降ろされて,健康そのもののような南部のウシに混じって牧場の草を食い始める.1〜2か月は何事もなく過ぎてゆく.ところが,突然大流行が北部産のウシの間に発生するのである.彼らは草を食わなくなり,1日に何10ポンドも目方が減ってゆき,尿は奇妙に赤くなり,背中を丸め,もの悲しい眼つきをしてぼんやり立ちつくすようになる.そして数日後には,みごとだった北部産のウシたちは,次々と硬直した四肢を突っ張らせて斃(たお)れてしまう.南部のウシが北部へ輸送されても同じことが起こった.彼らは北部の牧場に放たれる.しばらくの間はそこで草を食っているが,やがてよそへやられる.そのあとに今度は北部のウシが追い込まれ,ひと月ほど経つと彼らは死に始める.自らはけっして病気ではない南部のウシが,何かをこっそり牧場のどこかに残してゆくのだろうか.この不思議な死の正体は,いったい何なのだろうか."
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