Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
頭部外傷(外傷性脳損傷)の帰結について,リハビリテーションの立場からは,急性期の生命予後の問題ではなく,身体運動機能障害やいわゆる高次脳機能障害の特徴やこれらの症状が,また,生活の自立度が,自然経過や訓練によってどのように変化するか,復職の可能性はどうか,といった事項が大きな関心事である.本稿では,平成13年度から厚生労働省が3年間で実施した高次脳機能障害支援モデル事業で得られたデータをもとに,その帰結に関してまとめる.もとよりこのモデル事業は,頭部外傷に限った事業ではない.しかし,登録された症例の70%以上が頭部外傷であり,モデル事業データについて述べる帰結は,大まかには頭部外傷に関するものと言える.なお,一部は頭部外傷に限定した検討も行った.
頭部外傷の帰結研究について
わが国における頭部外傷の発生頻度,特徴となる症状,機能障害・能力障害・社会的不利の評価方法についての総説が大橋によって示されている1).Semlyenら2)は,頭部外傷患者のリハビリテーションの有効性を調べるのに理想的な研究デザインは,包括的で妥当性・信頼性のある尺度で,機能的自立を,そして,対照群との間で比較することであると述べている.しかし,実際にある訓練方法について,対象者を実施群と非実施群にランダムに分けて,2群間で比較するような調査は少ない.Prigatanoら3)は,彼らの言う全体論的環境指向性リハビリテーション・プログラムを実施した群と経済的理由によってこの治療を受けることのできない群との比較を行った.治療群では,家族が受けている心理的ストレスも復職率も良好であり,このプログラムが有効であると結論づけた.一方,高次脳機能障害の種々の面に対して用いられている神経心理学的アプローチの有用性について,Ciceroneら4)がそのエビデンスについて報告している.Semlyenら2)はまた,認知障害の回復速度が遅いことを指摘しており,受傷後2年までの経過を観察することが必要であると述べている.
Prigatano以降,多くの帰結研究が行われているが,個々の治療・訓練効果を比較するためには,共通の尺度を用い,病院から社会までの移行について記録できるデータベースを用意する必要がある.このような目的に合致するシステムとして,1987年からTBIMS(Traumatic Brain Injury Model System)が米国で始められた.これは,頭部外傷患者の急性期からリハビリテーション,社会参加に至る経過のなかで,治療,経過,帰結に関する情報を集め,そこから得られた知識を広める役割を持っている.わが国でも,TBIMSを参考に簡易版脳外傷データベースが作られ使用されている5).
Copyright © 2004, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.