Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
- 参考文献 Reference
はじめに
最近,運動イメージを運動能力の向上や改善に応用した報告がみられるようになった.例えばYueら1)は,身体練習を伴わずに運動イメージを想起させることのみで筋力の増強が認められることを報告した.これは,運動イメージの想起により運動単位の発火同期性が向上したためと考えられている2).また,運動イメージがパフォーマンスのなかでも運動スキルの向上を促進させることも報告されている3).
一方,リハビリテーションの臨床において,患者に運動を学習させる目的で,他者の運動を観察させる戦略もよく用いられている.例えば,手本となる運動をセラピストが行い,患者がそれを観察した後に模倣するといった過程がそれに相当する.この過程において,患者は運動の観察あるいは模倣中に自分自身の脳内で目的運動をシミュレートしており,手本となる運動を行っているセラピストと同様の脳神経活動が起こっている可能性がある.なぜなら他者の運動を観察した場合,観察者である患者の脳内表象とセラピストの脳内表象には共有関係が形成されていることが明らかにされているからである4).これは目標指向運動を視覚的に観察しているだけで,運動に関連した脳領域が活動していることを意味している.
運動イメージと運動観察,そして運動実行の間に機能的に一致した脳神経活動を生み出す,ミラーニューロンの存在が近年注目されている.ミラーニューロンは,サルではF5野,ヒトではブローカ野,下頭頂小葉,上側頭溝領域などで確認されている5,6).これらの部位は自らの運動実行でも活動するが,その運動をイメージした場合や他者が行っている運動を観察した場合にも同様に活動する6).ミラーニューロンに関する研究は,主に陽電子放射断層撮影法(PET)や機能的核磁気撮影法(fMRI)などのイメージング技術によるものが多く,脳波を用いた報告は少ない.最近になって,他者の運動を観察している最中に,観察者の脳波に特異な変化を認めることが報告された7-9).この変化は感覚運動皮質直上で認められ,周波数帯域8~13Hz付近の脳波Muリズムとして知られている.Muリズムは安静時で最も優位になり,運動や運動イメージなどにより減衰することが確認されている10).
これらはリハビリテーションに応用可能な興味深い現象であり,運動観察や運動イメージが運動関連脳領域の活動に影響を及ぼしていることを示している.しかしながら,脳波を使用したこれらの研究はあまり実施されていない.そこで,われわれはこれらの興味深い現象を追試するために,目標指向運動の観察や実行,さらにはイメージ中の脳波を測定し,その影響を調べることにした.
Copyright © 2005, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.