Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
エウリピデスの『エレクトラ』―父親殺しの復讐劇
高橋 正雄
1
1筑波大学心身障害学系
pp.686
発行日 2005年7月10日
Published Date 2005/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552100143
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紀元前5世紀に発表されたエウリピデスの『エレクトラ』(田中美知太郎訳,筑摩書房)には,母親と情夫によって父親を殺されたオレステスが,復讐のために母親を殺害する場面があるが,そこで彼が示す逡巡には,はるか後年のハムレットを思わせるものがある.
トロイア戦争に勝利して凱旋したギリシア軍の総大将アガメムノンは,帰国直後,妻クリュタイメストラと情夫アイギストスの手で殺される.その後,アガメムノンの息子のオレステスも他国へ追放されるが,やがて立派な若者に成長したオレステスは,アポロンの神のお告げに従い,父親の仇を打つために友人とともに故国に戻ってくる.そして,姉エレクトラとの再会を果たしたオレステスは,首尾よく母親の情夫アイギストスを殺害するのだが,いざ母親を殺害する段になると,急に躊躇しはじめる.「いったい,母をどうしたらいいのだ.殺さなければならないのだろうか,ほんとうに」,「どうして殺せよう,ぼくを生み,ぼくを養ってくれた,その人を」.
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