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Ⅰ.はじめに
待従i……君は詩人だが,わが輩ぐらいの年配になったら,この世の中というものが,まったく間の抜けた芝居だということに気がつくだろう.呆れはてるくらい進行が怠慢だ.いつだって,舞台がおくれてクライマックスが盛り上らない.恋に焦がれて死ななければならない奴が,そこに行きつくのがやっとのことで,もう老境に入っているという始末.幸い,奇術師が手近にいるから,単なる好奇心だけでなく,人間情熱の速度と論理にのって,展開される人生の縮図を見ようと思うのだ.(ジロドウ作「オンディーヌ」第二幕より,内村直也訳)
心理劇は集団精神療法の1つである.即興劇というドラマ的手技を用いるところから芸術療法の中にいれて考えることもできる.本誌17巻8号で中井が述べているように1),作業療法が「ケ」の世界を示すものならば,ドラマの世界は,まさに「ハレ」の世界といえる.それをよく言い現しているのが,冒頭の「オンディーヌ」のせりふである.進行が怠慢でクライマックスの盛りあがらない「ケ」の世界に対して,「ハレ」の世界では,人間情熱の速度と論理にのっとって人生の縮図が展開される.「ケ」の世界では目立たず,気がつかなかったものが,スポットライトの中で明らかになる.それによって,自分も,またまわりの人も目を開かされる,自分への気づきが生れる.
そのように,異なったものをここでとりあけるとしたらどのような意味があるだろうか.
第1は,すでに述べたように「ケ」の世界では気がつきにくいものを見い出すためにである.一体この患者にはどのような作業がよいのか,あるいは望んでいるのか.どのようなときにくずれるのか.
第2は,精神分裂病の患者が再発するのは,作業そのもののむずかしさより,ちょっとした対人関係であることの方が多い.そして,対人関係の問題を解決していく方法としての心理劇の利用がある.
第3には,心理劇の中でも作業療法と直接結びつくものがある.学校の授業などで体験学習として用いられているロールプレイングという方法である.会社への入社試験に際しどのようにふるまったらよいのかを,即興劇で演じてみるやり方である.
最後には,集団精神療法としての構造が,そのまま集団作業療法の参考になるかもしれない.集団を扱うときの治療者のあり方や,気をつけなければならないことなど.
そのような観点から,心理劇について,述べてみたい.ちょっと面白そうだから少し利用してみようと考えていただければ幸いである.
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