Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
夏目漱石と「不思議の国のアリス症候群」―『硝子戸の中』38
高橋 正雄
1
1筑波大学心身障害学系
pp.286
発行日 2005年3月10日
Published Date 2005/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552100069
- 有料閲覧
- 文献概要
大正4年に発表された『硝子戸の中』には,若い頃の漱石に「不思議の国のアリス症候群」を思わせる症状があったことをうかがわせる記述がある.
『硝子戸の中』の38で,漱石は自らの思春期を振り返って,「その頃の私は昼寝をすると,よく変なものに襲われがちであった」として,次のような不思議な体験を語っている.「私の親指が見る間に大きくなって,いつまで経っても留まらなかったり,或いは仰向けに眺めている天井が段々上から下りてきて,私の胸をおさえつけたり,又は眼を開いて普段と変わらない周囲を現に見ているのに,身体だけが睡魔の虜となって,いくらもがいても,手足を動かす事が出来なかったり,後で考えてさえ,夢だか正気だか訳の分からない場合が多かった」.
Copyright © 2005, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.