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はじめに
運動器疾患を対象とした理学療法ではバイオメカニクスの観点から,対象となる疾患部位のメカニカルストレス軽減を目的に直接あるいは遠隔的に介入する場合が多い.したがって理学療法士には身体に生じるメカニカルストレスについての理解が必要となる.
筆者は歩行時の身体に生じるメカニカルストレスを考えるうえでは,地球上での直立二足歩行という重力があるがゆえのストレスに加えて,床面と足底の間に生じた摩擦によるストレスも同様に重要であると考えている.前者は片脚立位時に生じる外部股関節内転モーメント1)や変形性膝関節症患者が増大する外部膝関節内転(内反)モーメント2〜4)といったストレスである.後者の摩擦によるストレスは剪断力として,フットケアの観点から研究5〜7)が行われているが,前者に比べてその報告は極めて少ない.
立脚期では足底は床面との摩擦によって固定されているにもかかわらず,身体は絶えず水平面上で回旋運動を伴っており8),それによって下肢には捻じれストレスが生じている9).臨床においても歩行時に生じる回旋ストレスに起因すると考えられる症例は少なくない.光学式3次元動作解析装置によって計測された関節回旋運動に関する精度の限界もある10)ため,そのような回旋ストレスをどう軽減させるかは理学療法士の経験やイメージによるところが大きい.
歩行中の摩擦による捻じれストレスを定量化するべく,筆者はfree moment(FM)というパラメータに着目して研究を行っている.今なお試行錯誤の研究段階ではあるものの,歩行時のFMの振幅には股関節が重要な役割を担っていることがわかってきた.
本稿では歩行時の下肢に生じるメカニカルストレスの指標としてFMを紹介し,股関節機能とFMとの関係および変形性股関節症患者のFMについて考察していく.本稿を通じたFMに関する知見が,読者にとって歩行時の回旋運動について再考する一助となれば幸甚である.
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