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痛みとは「実質的あるいは潜在的な組織損傷に結びつく,あるいはそのような損傷を表す言葉を使って述べられる不快な感覚・情動体験」と定義されている(国際疼痛学会).これまで痛みは,“急性・慢性”という表現で時間経過によって分類されてきたが,その解釈は正確でない.「急性痛」とは,外傷や疾病による組織損傷に伴って生じる痛みであり,原因が明確であるため検査で異常所見を得られやすく,患部の治癒とともに改善する.つまり,急性痛は生理的(正常)な情報であり,生体を守るために必須の警告信号としての意義がある.
「慢性疼痛」とは,組織損傷がない・治癒しているにもかかわらず発生・持続する原因不明の痛みであり,各種検査や画像所見で病的異常を見いだせないことから,正確な診断と適切な治療がなされず難治化しやすい.国際疼痛学会では,慢性疼痛とは「損傷した組織が治癒するのに要する妥当な期間(通常3か月間)を超えて持続または頻発する痛み」と定義づけており,生物学的な意義はないと付言している.持続期間による定義づけは非常に明確かつ実用的であるが,慢性疼痛の病態の本質を知らずして期間だけで判断することは非常に危うい.したがって,定義に基づく分類をするならば,① 各種検査で異常所見が見出せず原因が不明,または推定される原因よりも痛みの訴えがはるかに大きい(原因からでは説明がつかない),ならびに ② 持続期間が通常の組織治癒期間を超える(おおむね3か月以上),両者を満たす場合,慢性疼痛と考えられる.慢性疼痛は,急性痛と異なり病的な痛みで,疾病として扱われ,「国際疾病分類第11版(The 11th Revision of the International Classfication of Diseases:ICD-11)」にも組み込まれ,今後,本邦でも一疾病として扱っていくことになるであろう.
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