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はじめに
今日,高齢多死社会のなかで地域包括ケアシステムの構築が求められ,私たち理学療法士がかかわる分野として,在宅医療や介護の現場が増えてきている.在宅分野は,病院とは違い,在宅という利用者主体の場所に医療従事者が入り込むという特殊な状況である.また,介護保険法に基づく自立支援という方向性により,利用者の思いを優先させるという傾向がある.さらに,在宅の現場は利用者の自宅という閉ざされた空間で,複数の目が存在せず,医療従事者であるから利用者の領域に入り込むというきわめて特徴的なものであり,私たちは高い倫理観をもって,現場にいることが必要である.
日本看護協会1)では,「医療倫理の1.自律尊重原則:自律するのは患者側を指します.患者が自分で適切な意思決定をできるように,重要な情報を提供する必要があります.そして,患者が行った意思決定を医療従事者だけではなく,患者の家族も尊重するというもの,2.善行原則:患者に対して善を行うという原則です.医療側が考える善行ではなく,患者が考える最善の善行を行うというもの,3.無危害原則:患者に対しては当然のこととして“人”に対して無危害であることを求めるもの,4.正義原則:形式的な正義,実質的な正義を求めるものの4つの原則に加えて,私たち医療従事者は,誠実:真実を告げる,うそを言わない,あるいは他者をだまさない義務,忠誠:人の専心したことに対して誠実であり続ける義務を基盤にすること」を示している.
これらの原則を意識しつつも在宅の現場では,さまざまな葛藤を生じながら,高齢多死社会における独居生活や多重介護といった環境的課題,終末期や認知症といった意思決定による課題などに多数遭遇する.今回,在宅の現場で経験し得る5つの事柄において,倫理的な課題の葛藤を中心に示していきたい.
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