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はじめに
脳機能は,その局在性のみならず伝導路や関連領域との機能的結合(functional connectivity)を形成していることが知られている.機能的磁気共鳴画像法(functional magnetic resonance imaging:fMRI)や拡散テンソル(tractography)解析1),機能的近赤外線分光法(functional near-infrared spectroscopy:fNIRS)2)などのニューロイメージング法や,ウイルストレーサーをはじめとする神経回路解析法3)などの科学的手法より中枢神経系の神経解剖学の知見が進歩し,脳損傷による機能解剖学が明らかとなりつつある.さらに近年では,神経解剖学と計算論的神経科学とが融合した計算論的神経解剖学4)を用いた手法によって,脳内神経結合の包括的なマップが調べられている.その1つにコネクトーム(connectome)5)とよばれる神経回路地図がある(図1).コネクトームは主に認知機能を把握するために,すべての皮質領域および線条体,小脳などを含む皮質視床システムの構造的記述に用いられる6).コネクトームは,特定領域(ローカルエリア)における機能分別を担うとともに,さまざまな領域(グローバルエリア)との統合を担っている.このため,病変に伴ったコネクトームの変化は局所的な,単一のネットワークの影響にとどまらず,遠隔的に広範な影響を誘発すると考えられる.
特に出血性病変では,責任血管の違いや血腫の拡がりによって多様な病態を呈する.前方に拡がる被殻出血の場合,責任血管はHeubner反回動脈や内側線条体動脈,外側レンズ核線条体動脈の一部と考えられ,損傷部位は淡蒼球や尾状核の特に頭側に及ぶ.また,血腫が内包前脚に及ぶと前視床放線や前頭橋路が損傷を受けることとなる.臨床症状としては,注意,認知機能,遂行機能などに影響がみられる7).さらに皮質脊髄路に損傷が及ぶと,上肢に優位な運動麻痺を呈する.本稿では,前方に拡がる被殻出血の関連領域を整理しながら認知機能を中心とした運動制御について触れ,理学療法の進め方について事例を通じて言及していきたい.
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