- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
ヒトの口は食物を取り込み,分断し,把持し,取り込むための構造が備わっている.また,鼻腔と並んで呼気・吸気の通路となっており,口は呼吸器の末端と言えるだろう.嚥下が障害されると,ときとして窒息や誤嚥が起こる.さらに,誤嚥による肺炎は転帰不良と死亡のリスクを増加させる1).
厚生労働省が行った2011年度人口動態統計2)では,肺炎が脳血管障害に代わり,51年ぶりに死因の第3位となった.この傾向は,2013年度でも同様であった.第4位の脳血管障害についても,嚥下障害を合併する割合が非常に高く,結果として誤嚥性肺炎を招く.また,食べ物による窒息原因は食品分類表で「もち」が最も多く,次に「パン」や「ご飯」と続く.米を主食とする日本人にとって,嚥下障害は非常に身近な問題と言えよう.
近年の機能的磁気共鳴画像や陽電子放射断層撮影によって,嚥下誘発には前帯状回や島が重要な役割を果たしていることがわかり,注目されている3).また,延髄の孤束核や疑核とその周辺に局在するパターン発生器と呼ばれる神経細胞集団の関与も報告されているが,これら中枢神経機構の詳細な働きについてはよくわかっていない4).臨床的には,嚥下の神経制御機構である感覚入力,運動出力,脳幹の嚥下中枢の3つの構成要素が治療の焦点となっている.
嚥下障害に対する神経筋電気刺激(neuromuscular electrical stimulation:NMES)は,前述した3要素のうち,運動出力,すなわち筋力増強を目的として主に使用されてきた.さらに,筋収縮を伴わない感覚レベルのNMESは,中枢神経の興奮5,6),協調性の改善7),嚥下運動の誘発8)などさまざまな効果が期待されている.本稿では,嚥下障害に対するNMESについて,現状のエビデンスを概説するとともに最新の知見を紹介する.
なお,本巻の特集は「TENS」である.他筆者の内容からもわかるように,TENSは主として除痛目的に使用されている場合が多い.しかしながら,本稿では「TENS」ではなく「NMES」という用語を使用している.これは,嚥下障害に対する電気刺激は除痛ではなく筋力増強や感覚入力を目的としているためであり,ご理解いただきたい.
Copyright © 2016, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.