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はじめに
医療専門教育の主な目的は,公平かつ効率的な方法で人々のニーズに応えるように医療システムのパフォーマンスを高めることである1).理学療法を学んだ学生は卒業の時点で,自立した医療従事者としても医療チームの重要メンバーとしても仕事ができるようにさまざまな能力が必要である.世界中の医療システムにおいて理学療法士の責務は増加しており,複雑化する医療現場で地域社会が必要としているサービスを提供できるように,自律性を備えた卒業生が求められている.
理学療法士の診療のあり方は,例えばプライマリ・ケアや救急などの分野でコンサルタントやスペシャリストとして従事するなど,変化している.世界的に医療従事者が不足している時代においては,既存の医療労働力を適切に活用する必要がある.また,地域社会により良い医療成果をもたらすサービスを提供するにあたって指導的役割を果たせる理学療法士を教育する必要がある.
手技,人,技術,手順,経験,命題に関する知識など,あらゆるタイプの知識の習得が求められている2,3).Ewingら4)によると,Eraut5)は「多くの専門職の実践にとって重要な知識とは,特定の状況に対する繊細かつ知的理解とその状況に合わせて理論的知識を応用するなかで得られた知識である」と述べている.
幅広い情報源から得られた総合的な知識は,アセスメント,診断上の意思決定,プログラムの立案・実施・評価など理学療法士の能力の基本となる.コミュニケーション能力,医療・教育および関連システムのなかで適切かつ倫理的に仕事をする能力,健康を増進させる能力,けがを予防する能力,マネジメント・スキルを使う能力は,理学療法介入プログラムの効果的な実施にとって不可欠である.
理学療法士の教育プログラムでは,学生が多様な設定のなかで学習することが求められる.講義室,演習室,解剖室,実習室で多くの学習が行われると同時に,さまざまな医療施設でも多くの学習が行われる.どこにおいても,学生の学習要件に焦点が当てられる必要がある.
理学療法教育の開始直後から,新入生が自分たちのことを自ら選択した専門職の一員であるとみなすように働きかけることが極めて重要である.そのため,専門機関の一員であることの意味や,それによってどのような責務を個人として負っているかといった職業倫理を入学当初から学生に教える必要がある.
大学コミュニティと専門職コミュニティの間には,両者が基本的に期待するもの,すなわち教育か実践かという点で緊張関係がある.大学には専門職と異なるアジェンダがあり,学生が卒業までに習得すべき包括的素養とプログラム成果について独自の要件を設けている.一方,専門職コミュニティは,臨床の医療者として必要な能力開発の面などで,独自の成果を望んでいる.
学生の評価は,医療者の専門的判断によって決まる.それは学生や大学が期待するものとは異なるかもしれない.医療者はその分野のエキスパートではあるが,その価値観は他の関係者と異なることがあるので,学生評価のモニタリングには難しい面がある.学術的な学習と経験に基づく学習とがうまく統合していることが必要であり,大学の教師陣と臨床実習指導者の両者が,学生にとって最良の成果をもたらすのに必要な知識とスキルを必ず持っていることが求められる.
――21世紀においてすべての国の医療にとってのアジェンダは,根深い過去の問題に取り組もうとする質の高いビジョンが中心となるであろう.…新しい方法を実施し新しい組織環境で成長する能力を備えた医療従事者の育成を優先する医療サービスが求められている.そのためにはカリキュラムと養成プログラムの改変を急ぐ必要がある.…21世紀の医療には新しいタイプの医療従事者が必要である.すなわち,旧来の医療者―患者関係を脱却して患者との新しいパートナーシップを築く能力を備えた人間,チーム・組織環境のなかで先頭に立ち効率よくマネジメントと仕事ができる人間,安全で質の高いケアを行うだけでなく常に改善するチャンスを見つけようとしている人間である6).(Donaldson, 2003)
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