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はじめに
1980年代後半より提唱1)された脳損傷患者に対する急性期における起座・起立を主体とした離床の取り組みは,1990年代に入りその効果と適応性が多数報告され,現在定着している.そして本年の点数改定においても早期からの離床が重要視され,早期加算・病棟加算などの項目が新しく追加された,その一方で,医療事故の問題は急性期脳損傷患者に対する早期起座・起立練習の取り組みを遅延化させ,理学療法を後追い的な状態に陥らせることも事実である.また早期離床を目的とした脳血管障害のリハビリテーションは理学療法士(以下,PT)が単独で行うことは困難で,医師との協力のもとで行われるものである.しかし,リハビリテーション専門医による指導がない場合や医師側の脳損傷患者に対する処方の遅延化は,早期離床の取り組みを困難にしている.しかし,早期脳損傷患者のリスクを明らかにし,リスクに対して正しい対処法をもつことは,脳損傷患者の理学療法を徐々に早期離床化傾向に変更すると考える.当院において理学療法開設時の理学療法処方時期は,脳神経外科医,神経内科医,内科医で異なり,起座・起立の時期に関しても一定しない状態であった.しかし,リスク管理下2)における早期起座・起立の効果の証明やクリティカルパスの作成などの過程を経て,徐々にすべての科において理学療法の処方,および起座・起立開始時期は,早期化している.
また,脳損傷患者に理学療法を行う場合,リスクとして第一に考えられることは,患者の容体悪化や再発に関する事柄になる.特に早期起座・起立に関しては危険性のみが先行する.しかし,脳損傷が他の疾患と異なる点は,廃用症候群による2次的合併症が理学療法施行の危険因子になることである.例えば単純な例では,初期に生じた関節拘縮は歩行時の障害になる.また,脳神経外科術後の安静により生じる誤嚥性肺炎は,発熱による体力低下を生じさせる.その結果,起座・起立プログラムの遅延が生じ,臥床状態からの離脱を困難にする.さらに熱発状態の継続は,長期間の安静臥床状態に陥らせ,MRSAなどの感染症のリスクを増やすこととなる.さらに安静臥床の結果,下肢に生じた深部静脈血栓症は,起立や起座施行時に肺梗塞を誘発させる危険因子になる.また,PT自身にもリスクは生じる.例えば重度意識障害患者や重度片麻痺患者に対する起座・起立練習は,PT自身の腰痛を生じさせる.また,急性期医療における医療事故は近年の傾向として医療訴訟の対象になりやすいため,PT自身が注意すべき問題となる.このようにリスクを広範囲で考えた場合,脳損傷患者に対するリスクをまとめると(表1),①早期に理学療法を施行した際におけるリスク,②早期離床を行わない状態で理学療法を施行したときに生じるリスク,③PT自身にかかわるリスクに分類できると考えられる.
当院脳神経外科においては,1990年から理学療法が開設され,脳血管障害術後患者の理学療法プログラム2)の中に早期起座・起立を積極的に取り入れ早期離床を施行している.その結果,廃用症候群などの二次的障害の防止や覚醒レベルの向上などの効果を証明している.また早期離床によって生じた医療事故も発生していない.今回,脳損傷患者のリスク管理について,三つのリスクを基準にして,「後追い的な対応になる要因」「当院における管理基準」「事故防止を考慮した早期起座・起立練習方法」「PT自身のリスク回避の方法」についてまとめたので報告する.
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