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はじめに
普遍的に合意された態度の定義はない1)が,一般に態度は経験的に獲得されて固定された永続的な反応傾向のことをいう.近年,身体障害者に対する一般社会の関心は高まってきているものの,一般社会の身体障害者に対する態度(attitudes towards disabled persons;ATDP)は否定的であることが多い.否定的なATDPは,身体障害者の生活の質を低下させたり,自己実現を妨げる.
保健学を目指す学生は,家族や社会のもつATDPを身につけて入学してくる.ATDPは固定されたものでなく,在学中に得る知識や臨床経験を通して変化しうる.否定的なATDPとは,身体障害者を病者であり,依存的で,苦々しく,罪深く,無能で,性交渉は無く,事故に遭遇しやすく,嘆かわしく,非生産的である人間と認識する2)ことであり,リハビリテーションの成就を阻害する.
保健学の専門家,なかでも看護婦,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士は直接患者の指導に関わっており,彼らの言動は患者の動機づけに影響を及ぼす.しかし,保健学教育がATDPの観点から検証された報告は見当たらない.そこで,金沢大学医学部保健学科(以下,当学科)学生のATDPを測定し,彼らに対するATDP肯定化教育の可能性や,そのあり方について,本研究の結果を基に考えてみたい.ATDPの測定とは,ATDPという複雑な心理学的構成概念を,質問に対する言語的反応を介して数量的に測定する試みである.ATDPの変容とは,ある期間持続して持たれていたATDPが内外の要因によって変化することである.
ATDPの研究は「身体障害者に対する態度に関する尺度」が開発されて以来3),諸外国で多くなされてきた.一般社会のATDPは医療者のそれと同様4)であったり,医療者のほうが否定的な場合もある5).否定的なATDPをもつ医師には,治療を十分に施さなかったり,手控える傾向がある6).看護婦および小児保健施設の医療職員のATDPは,修業中に受けた教育によって改善した7).
本研究における仮説を以下に示す.
仮説1:大学生の大多数は入学するまで大半の時間を保護者の元ですごしてきた.したがつて「当学科新入生のATDPは専攻分野にかかわらず同じであろう」.
仮説2:女性のATDPは男性のそれよりも終始一貫して肯定的である4).ゆえに,「当学科の女子新入生は男子新入生に比べてATDPは肯定的であろう」.
仮説3:「患者に直接接して健康行動を促す分野を目指す学生,すなわち看護学・理学療法学・作業療法学専攻の新入生のATDPは,間接的な医療の分野を目指す学生,すなわち放射線・検査技術科学専攻の新入生のそれに比べると肯定的であろう」.
仮説4:当学科の編入学生は医療短期大学を卒業し,それぞれの専門分野の有資格者である.一般に,臨床経験を積むほど肯定的なATDPが育まれると考えられる.したがって「当学科編入学生のATDPは新入生のそれよりも高いであろう」.
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