Sweet Spot 文学に見るリハビリテーション
ゲーテの『ヘルマンとドロテーア』―あるがままの存在の肯定
高橋 正雄
1
1筑波大学心身障害学系
pp.484
発行日 2006年5月10日
Published Date 2006/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1552100308
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1797年に発表されたゲーテの『ヘルマンとドロテーア』(国松孝二訳,新潮社)は,フランス革命後の動乱期,ライン地方をフランス軍に追われた避難民たちが逃れてゆく状況を描いた難民文学の先駆的な作品であるが,そこには子供の養育方針に対する両親の対照的な考え方が示されている.
この物語の主人公ヘルマンは富裕な農家の一人息子だが,彼の父親はヘルマンに対する不満を抱いていた.父親は「伜のやつ,家の中ではいつもくるくる働いているくせに,外へ出るとぐずで内気で気がもめますよ.とかく人中に出るのを厭がり,そればかりか,若い女の子とつきあったり,若いものなら誰でも好いている楽しいダンスをしたりすることまで敬遠する始末です」と嘆き,「学校にあがっていたときから,読み書きやもの覚えがどうしても人並みにゆかず,いつもびりから一番だった」として,その原因を息子の名誉心や向上心のなさに求めるのである.
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