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1.はじめに
脳の機能局在(localization)と側性化(lateralization)についての知見は,古くから主として脳血管障害例における臨床症状と病巣との対比,および,脳皮質の電気的刺激などの手法を用いることにより蓄積されてきた.これに対して,変性性の脳病変や脳腫蕩例は障害部位の範囲を限定することが困難であることから,局在や側性化についての研究材料としては不適切であるとみなされていた.変性性脳疾患の代表と考えられているAlzheimer病(以下AD)を挙げてこれを説明してみよう.ADの主症状は痴呆であり,その「痴呆」の概念は「知能全般の低下状態」とされている.このことから,「AD=脳の変性疾患=知能の全般的低下状態をきたす疾患」という認識が生じ,ADつまり変性性脳疾患は脳機能の局在性を解明するための題材としては不向きであるという見解が一般的であった.
ところが最近,画像診断法の進歩が1つの理由で局所性の脳萎縮を呈する疾患が注目されるに従い,このような変性性痴呆疾患に対する考え方が大きく変化しつつある.局所性脳萎縮を呈する変性疾患は1900年初頭にPick病として報告されたが,その後はADほどに関心を寄せられてはいなかった.しかし,1970年代後半より臨床神経学,神経病理学など様々な立場において,Pick病に代表される局所性脳萎縮疾患に対する関心が高まり,最近ではこれらの疾患群はADに相対する疾患単位として確固たる地位を築きつつある.そこで,本稿ではこれらの局所性脳萎縮疾患についての考え方を紹介し,それに関連した歴史的背景,臨床症状,画像所見,病理像などを論じ,更に変性性痴呆疾患の検討から示唆される脳の側性化と行動について考えてみたい.
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