とびら
“障害”は軽し,されど“障壁”は厚し
金沢 善智
1
1弘前大学医療技術短期大学部理学療法学科
pp.309
発行日 1998年5月15日
Published Date 1998/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1551105061
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「枕元にあんぱんが1個と紙パックの牛乳」,これが私が10数年前に,理学療法士になって初めて訪問リハに行った先で出遭った情景である.T字杖と短下肢装具にて院内歩行が可能となり,2か月前に笑顔の退院をしたばかりの人であった.「病院のように手すりはないし,段差は多い.何度も転倒しそうになり,怖くて歩けない.だからほとんど寝ている,入院していたときのようにはできない」と訴える本人を前に,院内完結型の自己満足理学療法を行っていた自分の浅はかさを認識させられるとともに,住環境の重要さを知った.そして同時に,たとえ身体障害はさほど重くなくても,日本の住居の構造や設備面の不備が障害者に対して,大きくて厚い「障壁(barrier)」になっていることを思い知らされた.
建築学を学びたいという熱意のみを持って上京し,運よく大学そして大学院で建築学を学ぶことができた.その間,理学療法士として何軒かの住宅改造に関わり,10年間自宅の浴槽に入ったことのなかった慢性関節リウマチの人が入浴できるようになるなど,そのあまりにも劇的な効果を自分の実力と考えていた.
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