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1.はじめに
高齢者,障害者(児)にとって移動能力を確保することはADLやQOLに直結する重要なテーマである.歩行のための福祉用具は各種あるが,中でも杖の歴史は古く,紀元前2800年代の古代エジプト王朝の石碑に杖を携えた尖足の成人が彫られている1).杖や歩行補助具の歴史に関する文献は僅少であるが,15~16世紀の画家,ボッシュの作品のなかに,障害者の姿とともに多種の杖が描かれている2).当時は障害者自身が,自ら合ったものを作らざるを得なかった模様であるが,使途に応じて形作っていく原型がみられる.
近年に至り,障害ニーズへの社会的認識が高まり,リハビリテーション科学の発達,工学技術の応用,あるいは関連商産業の萌芽・成長などにともない杖や歩行補助具は急速に進歩した.とりわけ最近の素材や材質の開発,障害科学・人間工学の発達,生活のなかの意匠重視などにより,構造やデザインをはじめとする杖・歩行補助具の多種多様化がめざましい.
他方,杖や歩行補助具に関する情報面でも,カタログや紹介冊子に拠るだけでなく,ホームケア,介護関係の本が書店に並ぶようになり,あるいは介護ショップ3)の増加などで,非常に身近なものになってきた.また薬店やホームセンター,スーパーの店頭で,杖や歩行補助具を見かける機会も増えてきている.
普及のためにはユーザーや中間ユーザーの情報量が豊富になることが重要な要素であるが,一方ではメーカー各社の様々な商品名による情報も急増している.特に歩行器,歩行車などの商品名はバラエティに富んでおり,当事者や家族に商品名を挙げて相談をされると,むしろ適用紹介に関わる理学療法士のほうが,機種や構造を特定できなくて困惑する場面も少なくない.
そこで本稿では,多種多様化が進み商品情報が増えてきた杖と歩行補助具の最近の動向を整理し,分類の問題や,構造および用途の傾向を踏まえて,今後の適用紹介や関わり方について検討したい.
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