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1.はじめに
「地域リハビリテーションとは何か」という議論の前に,リハビリテーションとは何かという大前提が必要である.言うまでもないことではあるが,リハビリテーションとは「再び人間らしく生きること」「再びその人らしく生きること」であり,具体的には「生活の再建もしくは維持をしていく一連の過程」すなわち「障害をもつ人とそれをとりまく人々が,その人の人生の質を高める為に行う共同作業」である.したがってリハビリテーションの実践は,医療・保健・福祉をはじめとしてあらゆる分野からの参画が必要であり,社会全体の課題として取り組まれるべきものである.すなわち地域社会をぬきにして理想とするリハビリテーションの遂行は不可能とも言えるのである.
日本リハビリテーション病院協会では,地域リハ検討委員会において澤村・大田・浜村らが地域リハビリテーションの定義と活動理念を次のように示している.
「地域リハビリテーションとは障害をもつ人々や老人が住み慣れたところで,そこに住む人々とともに,一生安全に生き生きとした生活が送れるよう,医療や保健・福祉及び生活にかかわるあらゆる人々がおこなう活動のすべてを言う.その活動は,障害をもつ人々や老人のニーズに対し,先見的で,しかも身近で素早く,包括的で継続的そして体系的に対応しうるものでなければならない.また活動が実効あるものになるためには,活動母体を組織化する作業がなければならない.そして何より活動にかかわる人々が,障害をもつことや歳をとることを家族や自分自身の問題としてとらえることが必要である.」
しかし,残念ながら現在のわが国においては,このような活動は十分とは言えない.中でも急性期から慢性期,入院から在宅もしくは施設に至るシステム化されたリハビリテーション医療の位置づけが明確化されているとは言い難い.その結果,病院の中で行われるリハビリテーションと地域リハビリテーションに解離が生じ,高齢者や障害をもつ人の適切なリハビリテーション医療の流れが分断され,地域リハビリテーションの効果的な展開が不十分となっているのである.
日本において地域リハビリテーションがクローズアップされた経過をみると,当初は医療(=病院)に対するアンチテーゼのような形で登場し,「寝たきりを作っているのは病院である」「医療は生活を見ようとしていない」等の発想で,主に医療機関のシステムから外れるような形で活動が展開されてきた傾向があった.たしかにかつての医療にはこのような側面がなかったとは言えない.病院におけるリハビリテーション活動は地域におけるリハビリテーション活動を育成する努力が足りなかったのである.それ故,これまでの地域リハビリテーションの担い手の多くは医療機関に失望し,地域の保健・福祉等の分野を活動の拠点として展開してきた経過をもっている.ところが,現実の地域における高齢者・障害者の状況を見ると医療を抜きにしてその生活支援は考えられない.したがって地域リハビリテーションは医療機関を含めたトータルなリハビリテーションシステムの中に位置づけて実践するべきものではないかと思われる.そのためにもリハビリテーション全体における各病院のリハビリテーションの役割と位置づけを明確にし,それを踏まえた形で地域リハビリテーションの議論や実践を行うべきではないかと考える.
以下ではリハビリテーション医療全体に視点をおいた上で,地域リハビリテーション活動について検討し,今後の課題について述べる.
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