とびら
やさしく
望月 圭一
1
1東京大学医学部附属病院整形外科
pp.219
発行日 1994年4月15日
Published Date 1994/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1551103972
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最近の若者は,誰もが優しいという.理学療法士を目指す学生であれば,なおさらであろう.事実,臨床実習学生をみてもそのとおりで,礼儀正しく,清潔で真剣に学んでいる.しかし,時には,検査・測定などを行なっていて知識・技術を熱心に学ぼうとするあまりか,患者さんへの配慮・優しさに欠けることもあり,極端な場合には,被検者が患者さんであることすら忘れてしまう.知識・技術の修得とともに優しさも学んでほしいと思う.
“やさしく”と言えば,ほろ苦い思い出がある.昨春のこと,股関節術後の運動療法を行なっていたとき,患者のAさんに,突然,「どうしてそんなにやさしくできるんですか?」と聞かれた.私は,一瞬答につまり,多少面映ゆい感じで「手術後で痛いこともあるでしょうし,苦しいこともあるでしょうから,優しくするのは当然ですよ.」というようなことを答えた.しかし,Aさんは納得いかないように,再度「手術後,ベッドの上で少しでも足を動かすと痛いのに,ここでは,どうしてそんなに痛くなくやさしく動かせるんですか?」と聞く.どうもAさんのいっている“やさしく”は“易しく”のことで,技術のことを言っているようである.そこで,手術のこと,介助の部位,動かす方向など,そういう知識・技術があれば,痛くなくできるのだと答えた.治療者であれば,誰でも,優しくはいつも心がけていることであるが,どうも勘違いをしたようである.自意識過剰であったかと,後で赤面してしまった.
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