プログレス
せん妄時と眼球運動
一瀬 邦弘
1
,
島薗 安雄
2
1東京都多摩老人医療センター
2(財)神経研究所
pp.405
発行日 1992年6月15日
Published Date 1992/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1551103531
- 有料閲覧
- 文献概要
現在,超高齢化社会の到来を目前にひかえていると言われるが,医学医療の進歩によって,単に年齢が高いというだけの理由で十分な医療が受けられないという事態は少なくなっている.ところが入院中の患者が,いったんせん妄を起こし,点滴を外す,安静が守れない,幻覚がある,寝ない,夜中に騒ぐ,興奮し暴れるなどの状態になると,その途端から基礎疾患の治療,検査,看護など医療行為すべてにわたって困難が生じる.時には拘束や隔離,薬物による過鎮静が行なわれたり,十分な検査,診断や治療が行なわれないまま入院の継続不能とされたりする.また,せん妄があるために二次的合併症が起こりやすくなる.転倒による頭部打撲,骨折などの事故である.せん妄治療のための鎮静目的の薬物投与が,肺炎の重症化を招き予後不良となることさえある.こうした点から,せん妄に対する現実的な対処の指針1)をたて,発症の原因を明らかにし,その予防を行うことが急がれる.
せん妄は軽い意識のくもり(意識混濁)の上に幻覚,錯覚,妄想や不穏,興奮などの精神的な症状(意識変容)が加わった状態2)とされる.脳機能の指標として,広く普及しているものに脳波検査がある.しかし脳波は混濁の程度を測る上では有用だが,意識変容の程度には対応した変化を示さないため,これだけでせん妄の病態をとらえるのは難しい.
Copyright © 1992, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.