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1.初めに
慢性期の機能的には「プラトー」と言われた老人たちが,平行棒内で歩行訓練をしている.テーブルでは,痴呆のある患者がパズルやゲームを楽しんでいる.
これは老人保健施設での訓練風景である.
老人保健施設は,老齢社会の到来に備え,寝たきり老人,痴呆老人などの要介護老人への対応と,いわゆる社会的入院の解決を目的とした地域医療の拠点であり,病院と家庭・施設の中間に位置する通過施設である.
入所者は脳血管障害による陳旧例の片麻痺や痴呆,廃用により寝たきりとなった者,そしてADLはほぼ自立しているが退所先の確定していない老人たちである.その多くは入院経験が有り,理学療法を受けたものも少なくない.老人保健施設では入所者全体がリハビリテーションの対象となり,この施設でのリハビリテーションは治療的なものというよりも生活を中心とした対応が必要である.
また,この施設の大きな特徴は,入所者の生活に介護職員が大きな役割を果たしていることである.
離床,排泄誘導,グループワークなど,看護婦の存在に加えて,介護職員の力に負うところが大である.したがって,理学療法士が入所者の機能を生活の中で生かしていくためには,介護職員の協力が不可欠なものとなる.
入所者の寝返り,起き上がり,車いすへの移乗法にしても,介護職員全員が理解し,実施できるようになって初めてその動作が生活に生かされたことになる.
介護職員は介護福祉士の資格を有する者,特別養護老人ホームで寮母経験の有る者から,まったく障害者に接したことの無い者までさまざまで,医療やリハビリテーションへの知識も十分にあるとは言えない.そのため,理学療法が何であるのか,何故離床をしなければならないのか訓練の目的や意義を十分に理解してもらうことが必要になってくる.
このことは入所者や家族に対しても同様に言える.家庭に退所する場合,入所者や家族が訓練や施設での生活をどのように実生活で生かしていけば良いかを理解できていなければ,寝たきりにさせることを繰り返す結果となる可能性が高くなる.
入所者も家族も医療従事者からみれば素人と言える.しかし,家庭ではその素人が主体となって生活をするわけで理学療法士は入所者や家族にわかりやすく,実用的な指導を行なっていくくふうと努力とが必要である.つまり,医師から出された処方を入所者や家族のものにする必要がある.
では,入所中も退所後も生活に生かされる処方とは,いったいどのようなものが望まれるのであろうか.
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