天地人
処方箋
北
pp.455
発行日 1980年3月10日
Published Date 1980/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1402216462
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フランクフルトの空港で飛行機を待つ間所在なく歩きまわっていると,ふと薬局の文字が目に入った.少々体調に異常を覚えていたこともあって反射的にドアを押すと,白衣姿の青年が丁重に,「何をお求めですか」と問いかけてくる.アメリカ風のドラッグストアとは趣き違って簡素・清潔そのもので,飾られているものがないからあれこれ品定めをすることもない.斯くかく然かじかのものをと告げると,「ああ,それには医者の処方箋が必要です」という.さもありなんと自己紹介よろしく理由を伝えると,即座に「分かりました.では価格も医者用でけっこうです」と,引き出しの中からしかるべき2,3点をとり出す.整頓された店内のしつらえ同様に応答の言葉づかいも簡潔でむだがない.「余分なことかもしれませんが,ここに服薬注意が記されています.さようなら」と,まあこのような次第だった.ドイツ的だなあと思った.
湯浅年子さんの『続・パリ随想』(みすず書房)の中に「病人憲章」という一項がある.外国での発病から医療をうける手順の中で,医者と患者の信頼関係・相互不信がとりあげられているが,「薬はのんでいますか」「いいえ,どれも効かないからやめてアスピリンをのんでいます……」と診断と治療への疑念をぶちまけ,何のためにこの薬が必要なのか説明をしてくれないし,時には錠剤を三分の一ずつのみなさいというが,計りもしないでどうして正確に1/3にできるかと不満を述べている.
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