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Ⅰ.初めに
目前に迫りつつある超高齢化社会は,理学療法全体にも大きな問題を投げかけている.その本質や在りかたについて,従来の考えとは異なった問われかたをされつつあることを感じている.普通,私たちが考える理学療法のプロセスは機能障害を改善し,日常生活を自立させ,社会生活への復帰を得ようとするものである.したがってその基本となっている概念は,疾病によって発生する何らかの障害を回復させるというイメージをもっている.しかし,老人については機能の衰退ということが基本となり,回復よりも維持に重点が置かれ,主として回復を前提として成立している従来の理学療法は,見直しを求められている.もちろん,廃用症候群という概念があるが,それは低運動に対してであり,老人そのものの生理的身体的な特性に対するものではない.すなわち,老人に対しての理学療法には今までの枠を超えた新しい方法論が求められているのである.
ここでは体力維持の対象を病院などの入院者ではなく,主として退院し地域で生活している在宅の寝たきり老人,障害老人,それから健康老人ということに限定して考えてみたい.地域では彼らだけで存在するのではなく,生活を共にする介護者(主として家族)や生活の場である生活環境があり,それらは老人本人と深くかかわっている.したがって,場合により本人のみの体力維持だけでなく,地域ケアシステム全体の体力維持について考慮する必要もあろう.また,いわゆる機能維持訓練ではなくその人の生活の中でそれがどういう意味をもつのかを考えないと,いわゆる「できるADL」と「しているADL」のギャップが生じてくる.特に老人ではその傾向が強くなっているように感じている.
また,体力維持の背景として老人個人のQOL(Quality of Life:生活の質)もかかわってくる.QOLは個人の人生観に深く根をおろしていて,安易に立ち入るべきことではないが,指導方針を決める上で重要な位置を占めてくる.ここでは以上のような視点から老人の体力維持について考えてみたい.
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