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Ⅰ.初めに
慢性関節リウマチ(以下,RA)は,非化膿性関節炎を主症状とする慢性進行性疾患であり,患者の辿る臨床経過が一様でなく,経過の型や終末像の推定が困難である.
患者の過半数において,罹患年数を重ねるとともに障害の程度が強くなっていくということをつねに念頭に置き,理学療法を進める上でRA教育,生活指導にも重点を置くことが必要である.
RA患者に対する生活指導では,和式生活から洋式生活への転換を勧めることが一般的である.
和式生活における起居動作は,洋式生活に比較し,立ち座りなどの際に上下方向への重心移動が大きくなり,結果として下肢関節,特に膝関節に対し,多大な負荷を課すことになる.
下肢の支持性や筋力の低下した患者が,そのような動作を日常生活の中で行なった場合,下肢の関節破壊を助長するだけでなく,上肢の支持をより必要とするため上肢の関節破壊をも助長し,結果として,動作そのものが不可能となる.
寝たきり患者について考えた場合,“歩きたい”という願望は非常に強いものであるが,そのような患者では,骨破壊・骨粗鬆症・変形などが高度となっていることが多く,理学療法単独では対応に限界がある.
しかしながら,近年,人工関節置換術をはじめとする整形外科領域の技術の進歩,内科・整形外科・リハビリテーション科などの合同した医療チーム・アプローチの発達などにより,歩行補助具を必要とすることはあっても,歩行能力の獲得は,実現性の高い治療目標となった.
起き上がりに関しては,独力にて臥位から座位になることが不可能な患者でも,電動ベッドを使用することでその問題を解決することができる.
歩行能力が獲得できた患者で,意外に問題となるのがいすでの立ち座りであり,この動作が不可能な患者では,歩行能力が獲得できたとしても歩行は実用的であるとは言えない.
臨床経過からみてもいすでの立ち座りは,徐々に困難となっていきやすい動作であり,“RAといす”というテーマは,RA患者の理学療法を施行する際,避けて通れない問題である.
市販されているいすの座面は,37~45cmで,40cmが平均的な高さであるが,最近,いすの座面の高さは低くなる傾向にある.病院の外来のいす,トイレの便座の高さなども配慮されているとは言い難く,不満を訴える患者も少なくない.患者に適していない高さのいすに座る場合,ゆっくり座ることができず,落下するような座りかたをすることが多く,椎体の圧迫骨折をきたす可能性も高いと考えられる.また,立ち上がる際,上肢の補助を必要とするばかりでなく,大腿,あるいは下腿後面でいすの前縁を押し付けるようにして立ち上がる患者もしばしば認められる.もし,そのとき,いすが動けば,転倒する可能性は大であろう.
また,座った直後に立ち上がるよりも,長時間座位を保持した後に立ち上がるほうが,より困難であるということも,よく観察される事柄である.このことは,RA患者に特徴的な“こわばり”も,いすでの立ち座りを考えるときの要因となりうることを示唆するものと思われる.
以上の如く,RA患者においていすは重要な問題であり,ここではRA患者にとって,立ち座りに最適ないすの高さという点を中心に現状を踏まえ検討したい.
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