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FIFAのワールドカップ決勝戦におけるジダンの頭突きに対するレッドカードは,フィナーレを迎えていたヒーローにはそぐわないもので,衝撃的でありました.相手選手による言葉の暴力が事の発端であると報道されましたが,ヤジを飛ばしたり,相手を中傷する行為はいろいろな競技や試合で行われています.精神的なダメージを与えて少しでも優位に立とうという思いからのものですが,スポーツマンシップに則った行為とは言えません.プロ野球でも,江川投手や掛布選手が現役の頃の甲子園球場では,外野席の応援団が率先して相手選手を中傷する応援?合戦が繰り広げられ,それは耳を覆いたくなるような,見苦しく酷い内容でありました.幸いにプロ野球では自浄作用が働いて中傷合戦はなくなり,近年では多くの球場でひいきのチームや選手に対する応援を中心とした,本来の姿に変わってきています.島国日本で生活していると理解しにくいことですが,とりわけヨーロッパのサッカー界では,背景に移民問題,人種,宗教,その他の様々な要因が存在していると言われています.
私たちの深層心理には他者と差別しようとする心が存在しています.Maslowの欲求階層説によれば所属の欲求ということになります.所属したいという欲求は良しとして,それがために他者と差別化を図ろうとすると,前述のような問題が生じることもあります.人間らしい関係性の構築にはそのコントロールが必要であり,他者に対する尊敬の欲求こそが必要なのでしょう.どうしても装具を受け入れない患者がいます.装具は障害者のレッテルであるという思いも理由の1つであるようですが,そのような負の欲求は人間の可能性を摘んでしまうことにもなりかねません.単に正常とのズレだけで価値を判断してしまうことのないように,常に日常的な実用性にもしっかり目を向けながら歩行練習に取り組んでいく必要があります.今月号の特集「歩行練習」では,その両者を視野に入れながら理学療法士としてどのように取り組むか,pusher現象を呈する片麻痺患者,半側空間無視を伴う片麻痺患者,運動失調および平衡障害を伴う患者,パーキンソン病患者,低酸素脳症患者,腰部脊柱管狭窄症患者,脊柱後彎をもつ高齢者を対象に7氏に論じていただきました.理学療法士として非常に興味深い特集であると評価をいただけるものと確信しています.
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