- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
5月27日から29日の3日間,第51回日本理学療法学術大会が札幌で開催されました.約5,000名の参加があったそうです.今回は日本理学療法士協会に属する12の分科学会の連合学会という位置づけの学会でもありました.私は神経領域を中心に参加しましたので,他の領域の状況を知ることはできませんでしたが,神経領域の報告や討論の様子をみて,学会の変化を感じました.中心となる人たちがこれまでと入れ替わり,5,6年前と比べて質的にかなり向上していると思いました.理学療法学が科学として発展していく可能性を予感させてくれた学会でした.一方で,人間を対象としたリハビリテーション医療という側面が薄くなり,治療医学的な志向性が強くなって,神経生理学的アプローチが盛んであった頃に陥った,人間本来の活動を犠牲にした世界の再来を危惧する一面もありました.専門化していくことの重要性はありますが,理学療法士の請け負う領域は全人間的なものであり,臨床や生活の場で木だけを見て森や山を見ないような理学療法士の育成は避けたいところです.
さて,そう言いながら,本号の特集は「被殻出血と理学療法」という,半ばピンポイントに焦点を当てたようなタイトルになっています.過去の特集や研究報告では「脳卒中片麻痺に対する…」というような表現がほとんどです.脳は局所的にもシステム的にもさまざまな働きをします.脳卒中によってそのシステムが壊れるわけですから,ザックリと「脳卒中片麻痺」と表現するのは明らかに好ましいものではありません.脳の構造学的なことや機能的なことはかなり解明されていますから,起こっている現象を脳を対象として説明できるようになってきました.病態の原因となる脳の損傷がわかると戦略も見えてきます.やみくもに戦わず,効率的・効果的な策を練ることができるかもしれません.これを戦略といいます.被殻出血は脳出血のなかで約40%を占めますが,その病態は多岐にわたります.そうなる理由があるからです.それを明らかにすることによって,理学療法評価やかかわり方を一考していただこうという目的で企画したものです.熟読していただくと,ヒトだけではなく,人間をみていくことにもつながる内容であると理解していただけるでしょう.それぞれの執筆者には過去に十分な情報がないなかで果敢に挑戦していただきました.この特集が脳の中を丁寧にみながら理学療法を行っていく世界への入口になることを期待しています.
Copyright © 2016, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.