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私は日ごろ臨床で中枢神経疾患のリハビリテーションに従事していますが,やはり整形外科疾患と違って中枢神経疾患のリハビリテーションにおいては感覚障害や知覚障害,そして身体図式の欠如やボディーイメージの低下が運動機能やADL(activities of daily living)障害に大きく関わっていることを実感します.ところが学校教育や症候学の著書では依然として中枢神経疾患の病態を運動出力の問題として説明されている部分が多く,ADLの障害も多くの部分が麻痺した身体が「動かないこと」に焦点をあてて説明されています.しかしながら中枢神経疾患の問題,そして神経リハビリテーションの難しさは脳に伝わるべき情報がきちんと伝わらないこと,そして伝わったとしても的確に処理されないことにあるとも言えます.すなわち損傷脳者の運動行為を建築に例えると,「土地を見て状況を把握し,的確な地図・設計図を書くことが重要なのに,不十分な測量と,デタラメな地図・設計図を基に,のこぎりだけを使って家を建てようとしている」と表現できるかもしれません.のこぎりだけでは家は建ちませんので道具(身体や姿勢制御機構)を揃えることも重要ですが,地図・設計図が間違っていると,基礎さえ打つことができません.本書はこの地図・設計図を正しく書く部分,すなわち「イメージ(脳の情報処理やイメージマップ)」に関する世界的な研究成果をはじめ,治療のヒントとなる神経基盤についてわかりやすく解説された臨床応用に役立つ本です.
一般的な臨床現場で悩ましいところはこの地図・設計図(脳の情報処理やイメージマップ)が外から見えないことですが,本書ではfMRI(機能的磁気共鳴画像/functional magnetic resonance imaging)等の最新イメージ機器を用いてその脳の情報処理やイメージマップの最新研究を紹介し,そして左半側身体失認の神経学的背景など,普段臨床で私たちが困っている現象・症状の原因についても科学的根拠に基づいて解説してくれています.また運動イメージに関する最新のリハビリテーションも多数紹介されています.
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