特集 股関節疾患の理学療法―update
大腿骨頸部骨折の予防装具(ヒッププロテクター)の効果と転倒予防指導
中村 直人
1
Naoto Nakamura
1
1独立行政法人国立長寿医療研究センター
pp.1067-1072
発行日 2010年12月15日
Published Date 2010/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1551101815
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
高齢者に骨折などの外傷を生じさせる外力源として最も頻度の高いのは,言うまでもなく転倒である.転倒と骨折の頻度は加齢とともに指数関数的に上昇する.そのような背景のもとで,後期高齢者の転倒による骨折が,理学療法士の扱う頻度の最も高い外傷の1つとなる現実が生じている.この一方的な増大は今後さらに顕著となると予想されるが,それを阻止するため,転倒したときに骨に到達する転倒外力を減衰させることで転倒骨折を減らそうという技法がプロテクターである.主に大腿骨頸部/転子部においてヒッププロテクターと呼ばれて発達してきた.
そもそも事故などで外力が加わっても体を保護する装置や装具などで外力を減衰させて生じる外傷を最小限にしようとする考えは古くから定着しており,野球の捕手・剣道・アメリカンフットボール・スノーボードなどのスポーツにおける防具や,自動車内のシートベルト・エアーバッグ・危険度の高い工事現場におけるヘルメットなどは広く普及しているだけでなく,一部法的に義務化されている.これらは,それぞれが危険な外力が事故的に生じるリスクが高い場面に限定して使用されている.それでは,転倒リスクが高い高齢者に対するヒッププロテクターの有効性はどうであろうか.
本稿では,ヒッププロテクターの適応の現状とヒッププロテクターの有効性のエビデンスをsystematic reviewsから探究し,科学的な妥当性を概説するとともに,転倒予防指導に関わる生活環境についても解説を加える.
Copyright © 2010, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.