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はじめに
起立歩行,日常生活の諸動作,スポーツ・趣味活動などを目的とする身体運動の遂行には,筋,骨格,関節,靱帯の基礎的・運動器系要素が中心的役割を果たす.この筋・骨格系の機能に,身体運動を制御する神経系機能,身体に作用している静的・動的な生体力学的要因,身体運動のエネルギー源となる心肺・代謝系の補助的要素,個人の成育歴・社会歴・生活環境を背景とする情動・認知系としての心理的要素が加わる1).
正常身体運動遂行には,身体機能システムとしての上記5要素の諸身体機能正常機能の発現と維持向上が必要である.従来,関節可動制限や運動時の疼痛などの身体運動機能低下状態は,関節機能障害(joint dysfunction:JD)や体性機能障害(somatic dysfunction:SD)と表現されてきた.身体機能システムとしての運動機能低下や異常の観点からは,運動機能障害(movement dysfunction:MD)という用語が適切である.
運動機能障害に対する理学療法の専門性向上,理学療法技術の発展のためには,理学療法士が臨床において分析,診断,判断する理学療法診断学の学問的成熟と発展が重要な課題である.さらにそのためには,解剖学,運動学,生理学の基礎学問をもとに理学療法評価技術によって運動機能障害の要素を推定する「機能診断学」,確固たる臨床科学実践的知識を背景に的確な障害分析を図る「障害分析学」,統合分析した評価結果を考察し臨床応用に直結する「臨床判断学」の3学際領域の確立が必務である(図1).
本稿では,徒手理学療法(manual physical therapy,manipulative physical therapy)における理学療法機能診断のあり方に加え,日常の異常運動パターン反復や不良姿勢持続の観点から対象者の運動機能障害を把握・分析する運動病理学的モデルの紹介,および腰椎可動性低下と不安定性に対する機能診断過程について述べる.
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