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はじめに
膝関節疾患に対する主な運動療法は,膝関節を構成する筋や関節の機能低下を,適切な運動を実施することで克服する,という考え方が中心となっている.なぜなら,これらを含む骨関節疾患は,筋や関節そのものが変化しているという構造的な異常として捉えられることが多いためである.例えば,疼痛や手術によって生じた膝関節の退行変化に対する直接的な治療,つまり萎縮した筋の筋力増強や,拘縮を起こした関節の関節可動域(以下,ROM)の拡大といった個別的な治療を実施し,それを起立・歩行などの移動能力の獲得に結びつけていくというような考え方である.骨関節疾患に対するこのような治療の枠組みは,わが国においてかなり以前から定着していたと考えられる1).しかし,運動器の障害によって生じた動作の異常性を,筋力やROMなどの問題と結びつけて考える治療が常に有効であるとは限らないことも事実である2~4).
臨床現場では,変形性膝関節症(以下,膝OA)による人工膝関節全置換術(以下,TKA)後に膝周囲の筋力やROMが改善されたにもかかわらず,歩容が術前と変わらない症例を経験することもあれば,練習中は目的の動作が可能であってもリハビリテーション室から1歩出るとその動作を行えなくなる症例を担当することもある.「きれいに歩きたい」という訴えやパフォーマンスの向上に対して,われわれは今後も量的な練習のみを機械的に続けていてよいのだろうか.
この点に対して,認知運動療法は運動学習における介入手段として大変興味深いものである.近年,脳に器質的変化がないとされる骨関節疾患患者についても,認知機能やイメージをはじめとする高次脳機能への介入効果が注目されはじめている5).本稿では,症例を提示しながらTKA患者に対する認知運動療法の実際と,膝OAをはじめとする骨関節疾患における病態の解釈と臨床展開について紹介する.
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