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教師の質の低下が言われて久しい.中学や高校の教師に限ったことではない.自分も大学医学部の教授=教師であるが,昔自分が習った医学部のいわゆる名物教授たちや,自分の教室の先輩教授たちより質が落ちているとの自覚がある.彼らには圧倒的な知識があった.自分の専門分野以外にも博識であった.翻って自身を省みると恥ずかしくなる.専門分野が細分化され勉強すべきことがらが多くなったためか,ある分野のある領域には非常に詳しいが,それ以外の知識は若いころからアップデートされないという医師が多くなった.
僕が指導を受けた国分正一名誉教授は「教え厳しからざるは師の怠りなり」と言って,術前カンファレンスや論文の指導を厳しく行った.もともとは東北大学病理学実習室の入口に書いてあったものと記憶する.厳しいとは何か? 理不尽な要求,無理な高い要求をすることではない.妥協を許さないことである.論文であれば,ある一定のレベルに到達しなければ,何度でも書き直させる.何度も書き直させるということは,こちらも何度も読むということで,膨大な時間を要する.日頃の仕事や研究に費やす時間が増えると,後輩のために何度も論文を読んで指導する時間を惜しみ,「なあなあ」で済ませがちである.指導医に直してもらいました,と言って持ってくる論文を読むと,論理が間違っている,体裁が整っていないものがほとんどである.指導医が厳しく指導することを怖がっているようにも思える.ロジックの間違い,あるいは書式や体裁の間違いなら,専門的な知識がなくても指摘できる.「論文の書き方」の講義をしたり,図表の書き方を医局で説明したりしているが,一朝一夕では身につかないようだ.実際の論文で何度も根気強く指導するしかない.
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