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はじめに
肩関節周囲炎は1872年にDuplayによってperiarthrite scapulohumeraleと命名されて今日に至るまで多くの病名が与えられているが1),いまだに統一された見解が得られていない症候群である.信原は肩関節周囲炎を7群に分類し,原因と病変部位が明らかな疾患を除外した,中年以後に発生する肩関節部の疼痛と拘縮をきたす疾患を「五十肩」とした2).一般にはこの概念が受け入れられている.五十肩の病因は諸説ある.三笠は腱板と上腕二頭筋長頭腱に退行変性が起き,その結果生じた三角筋との筋力のアンバランスから上腕骨頭と肩峰でのimpingingが起き,その後の腱炎,肩峰下滑液包炎の治癒過程が五十肩であるとした3).また,尾崎は自験手術50例から,主病変部位は腱板疎部(rotator interval)であると報告した4).他の説では五十肩を軽症の肩手症候群として捉え,関節痛の原因を相反神経支配の撹乱によるもの,つまり拮抗筋と共同筋の同時収縮が誘因であり,反射性交感神経性萎縮症(RSD)と類似しているとした5).このように初発病巣を特定するに至ってないが,第2肩関節と呼ばれる肩峰下腔の活動機構に炎症や退行変性が生じた病態と捉えられている.五十肩について,既に70年前にCod-manはその定義づけ,治療および病理学的解釈の困難さを論じ,exerciseを考案した2).その後,五十肩に対する保存的治療法の検討が数多く試みられてきたが,経過とともに病態が変化することや症例によって異なる機能障害を呈することから適切な理学療法が難しい場面に遭遇する.本稿では肩関節周囲炎の中のいわゆる「五十肩」について,臨床症状,理学療法評価およびその徒手的な運動療法の目的,方法,効果について文献的考察を交えて述べる.
五十肩の臨床症状
疼痛は三角筋部から上腕外側,肘関節橈側部への放散痛が多く,時に頸部や上肢に及び運動時痛のみならず夜間痛が特徴的である2,6,7).臨床所見の酷似する腱板断裂との鑑別で有用なものは,拘縮と烏口突起部の圧痛であり五十肩に多い8).信原は発症1か月以内では烏口突起部の痛みが高率であると報告している2).その他の圧痛部位では上腕二頭筋長頭腱(結節間溝),大結節などがある(図1).腱板断裂では挙上時のcrepitus(軋音),棘上筋萎縮,drop arm signが陽性となりやすい8).安静時は三角筋部の痛みを訴えるものが多く,疼痛領域はC5~C6髄節に沿った特徴がある.次に経過に伴う疼痛と症状の特徴について記す.
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