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はじめに
運動器疾患は,高齢者が要介護状態となる主要な原因疾患の1つとなっている.高齢化の進んだ現在の日本社会において,運動器疾患対策は,高齢期におけるQOLの面のみならず,財政的にも社会保障上の大きな課題となっている.
近年本邦における平均寿命の延長は,運動器について考えるうえで欠くことができない骨・関節の問題を急増させている.しかしながら,その需要に答えるための加齢による骨・関節疾患の理学療法治療技術の進歩は十分とは言えず,保存的治療については関心が薄いのが実情である.
特に変形性膝関節症(以下,膝OA)は,古くから理学療法の対象疾患でありながら,多くの施設で筋力や関節可動域の改善のみを理学療法のターゲットとしていることは否めない.これまでの膝OAの理学療法とは,膝を中心とした組織のみに焦点を当てた運動療法であり,下肢伸展挙上運動を中心とした大腿四頭筋の筋力改善が主流を占めてきた.しかし,大腿四頭筋筋力改善が膝OAの進行防止に有効であるのか,その頻度や期間についても決定的なエビデンスは提示されていない.
膝OA患者の多くは薬物療法,足底挿板,物理療法などの保存的治療を受けている.理学療法士による,本格的な膝OA治療を目的とした理学療法を受けている患者数は,上記の治療のみを受けている患者数に比較して圧倒的に少ないと推測している.その理由としては,膝OA患者の多くは地域の医院を受診しており,そこに勤務する理学療法士が少ないこともある.筆者は臨床を行う中で,膝OAの理学療法は,疾患の進行を遅らせる,または停止することができる根治的治療法の1つであると確信している.
本稿では,膝OA発症と進行の成因を生体力学的観点から述べ,その観点から理学療法を展開する上で欠くことのできない姿勢・動作様式の評価方法,さらに症例提示を通して理学療法戦略を論じていく.
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