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まだ理学療法士(以下,PT)になって間もない頃,先輩PTから「外来理学療法は,PTとしての実力が率直に試される場なので,患者の像を単に疾患云々の重症度で判断せずに,症状を注意深く観察し,評価したうえで忠実に治療を行わなければならない.外来理学療法は入院理学療法より即時効果が求められるので,評価と治療でみせる患者の反応を軽視してはならず,常に注意を払うべきである」と言われたことがある.今から思えば,おそらく私の行っていた理学療法が先輩PTの目には外来・入院の別はまったく関係なく,いずれの患者に対する場合でも疾患名の先入観にとらわれすぎた評価と治療に映り,見兼ねたうえでの教育的指導であったのであろう.つまり,疾患名が同じであれば評価から治療プログラムに至る流れが常に画一的であり,治療に至っては個々の患者の像はなく,教科書に載っているマニュアルに終始していたことに対する戒めであったのだろうと解釈している.
患者は,外来であれ入院であれ当然のように痛みの除去などの治療効果と不自由な日常動作の解消を期待する.患者には,PTに対する信頼や行われようとしている理学療法に期待する心理作用が伺え,われわれPTはそれに答えるべく研鑚を積み,理学療法を実践する.臨床実習の場面では,「疾患名は見えても患者自身の顔(特徴)が見えない」と実習指導者に指摘されている学生によく出会う.そもそも,われわれが対象としているのは生身の人間であり,同じ疾患名といえども症状に与える要因は,性別,年齢,障害の程度,経過期間,生活環境など非常に多く,個々の患者の顔を見ずして十分な治療効果を期待することはできない.これは当たり前のことであり,改めて説明するまでもない.若い頃の私と重なり,妙に同情してしまう.
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