増刊号 病理組織・細胞診実践マニュアル
第III章 細胞診
4.細胞診断学各論
6)乳腺
渡辺 達男
1
1長野県がん検診・救急センター検査部臨床検査科
pp.256-258
発行日 1998年6月15日
Published Date 1998/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543903515
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
はじめに
乳腺の細胞診では,乳頭からの異常分泌物と乳腺内腫瘤を穿刺吸引して得られる材料が主な対象となる.乳頭異常分泌物では,通常,得られる情報は,乳管内に限り剥離した上皮細胞や泡沫細胞がみられ,変性が加わっていることから,その診断基準は従来の剥離細胞を基準とした細胞個々の異型を判定する方法が主体である.一方,穿刺吸引細胞診では,腫瘤からの生着している新鮮な上皮および間質の細胞であり,細胞の変性はほとんどない.したがって,その診断基準は従来の細胞異型判定から新たな方法として細胞群の出現パターンや上皮と間質の比率,細胞構築を読み,組織型を類推すること,また“ホツレ現象”に代表される細胞相互関係の把握などが重要視されてきている.なぜならば,一般的に乳癌は小型で異型の少ない細胞の症例が約半数の症例を占めており,従来の細胞異型のみの診断基準では良・悪性の判定に困難を覚えることが多かったためである.このように,乳頭異常分泌細胞診と穿刺吸引細胞診とではその目的とする部分,その診断基準に大きな相違がみられることから,材料により診断基準を使い分ける必要がある.
以下には,まず乳腺細胞診を行ううえでの乳腺の基本構造,次いで乳頭異常分泌細胞診,穿刺吸引細胞診のそれぞれについて診断に影響を及ぼす標本作製手技を中心に,良・悪性の鑑別ポイントなどを概説する.
Copyright © 1998, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.