一口メモ
再び緑膿菌
山口 惠三
1
1東邦大学微生物学教室
pp.32
発行日 1996年6月15日
Published Date 1996/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543902732
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緑膿菌は1882年に緑色を帯びた膿からGessardによって初めて分離されたブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌である.本菌は自然界に広く存在しており,ヒトに対してはほとんど病原性を示さないように思われていた.しかし,医療技術の進歩に伴う免疫抑制剤の使用により,緑膿菌は1960年代の後半から日和見感染症の原因菌として注目されるようになった.本菌は多くの抗菌薬や消毒剤に耐性を示し,病院内の環境にも長期間の生存が可能である.また病原性にかかわる種々の菌体外成分を産生するとともに,グリコカリックスやアルギネートなどの多糖体を菌体表層に分泌し,組織粘膜表面に容易に付着する.本菌による感染症は肺炎,尿路感染症,敗血症として,入院中の免疫低下状態の患者に高頻度でみられる.また,免疫能は正常であってもびまん性汎細気管支炎などのように気道に器質的障害を有する患者では本菌による持続感染がみられる.
1960年代後半から始まった緑膿菌感染症は院内感染として非常に大きな問題となったが,1970年から1980年にかけて開発されたピペラシリンをはじめとする抗緑膿菌ペニシリン剤や1980年代初めに認可されたセフタジジムなどの第三世代セフェム剤の登場により,一時下火となった.そして,1980年代の半ばからはMRSAによる院内感染症が大きな問題となり,緑膿菌感染症に対する関心はさらに薄れていった.
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