けんさアラカルト
言葉づかいは心づかい
上田 芳裕
1
1コミュニケーション・フォーラム恵泉会
pp.1268
発行日 1990年9月1日
Published Date 1990/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543900368
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病院に来る人のほとんどは,体の病人である前に,気分のうえでも病人である.検査って,どんなことされるのだろう,痛いことされないかなあ,時間がかかると困る,もし入院などと言われたらどうしよう,お金もかかるなあ,などと診察以前から恐怖心,警戒心を持っている.それだけに,医療に携わる人のコトバが患者に与える影響は,大きいものである.
私の叔母がCT検査を受けるので,一緒に病院へ行った.患者が大勢座っている.どの顔も不安そうな顔である.叔母を椅子に座らせて待っていると,検査室のドアが少し開いて,「渡辺さん,入って下さい」と低い声で呼ばれた.私も入って,叔母を抱えてベッドに寝かせようとしていると,「あんたは出て下さい」と若い検査技師が偉そうな口ぶりで言った.めまいのする叔母は高いベッドに一人で上がれないのに“出て行け”とは何という言いかただ,と腹が立ったが,黙っていた.廊下に出ていると,「すみましたよ」と例のうっとうしい声で言う.叔母と二人でまた廊下の椅子で待っていたが,何の連絡もない.私はドアを開けて,「もういいのですか」と言うと,あの若い技師は背中を向けたまま,「すんだら言います,今書いているから.」ぶっきらぼうこの上なしである.この技師は頭は優秀かもわからないが,人間的にはマイナスである.
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