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病理医と臨床医の敷居が低くなる良書
腎臓を専門とする医師のほとんどが臨床における腎病理の重要性を理解し,よく勉強している.腎生検のカンファレンスや学会中のレクチャーなどはいつもどこも満員である.ただ,自信を持って自分は腎病理が読めるという臨床医はほとんどいないのが現状である.なぜだろうか.やはり腎病理の特殊性があるからではないだろうか.例えば,腫瘍の生検を病理診断する時,悪性か良性かの判断が重要で,経過や病因はあまり関係なく,その場の病理所見で治療法も決定される.しかし腎病理の場合,単にスナップショットのみで判断するのでなく時間軸を勘案してどのような経過でこの病態となり,今後どのようになっていくと推察できるかという情報が病理報告に求められる.したがって,病理アトラスで典型像をいくら見て理解しても実際に読めないことが多いのであろう.つまり正確な診断には臨床医と病理医が歩み寄って情報を共有することが不可欠となる.しかし,これまで十分にそれがなされていたかはいささか疑問である.両者が集うカンファレンスや研究会でも経験の豊富な腎病理医がどのような思考回路で判断したか述べることなく難解な症例の結論を出すことがあり,それを臨床医が聞いてただ鵜呑みにして“やっぱり腎病理は奥が深くて入門しづらい”と思って終わることがよくある.病理医から臨床医への一方通行であり,両者の壁は厚くなるばかりである.
その中で,この『なぜパターン認識だけで腎病理は読めないのか?』は腎病理医の代表の長田道夫先生(筑波大)と臨床医の代表の門川俊明先生(慶大医学教育統轄センター)が会話形式で,病理医がどのような思考プロセスで症例を読んでいくのか解き明かしており,大変実践的な内容となっている.特に日頃聞きにくいような基本的な内容も門川先生が臨床医目線でどんどん聞いてくれるし,また答える長田先生も臨床医が知っていてほしいことや病理医でも意見が分かれる内容などもそのまま歯切れよく回答しているので,非常に読みやすくまた腑に落ちやすい.これから腎病理を専門とする病理医になりたい方には,ぜひまず初めに読んで腎病理医としての診断プロセスのたたき台を作っていただきたいと思う.また,腎病理を専門としない腎臓医も腎生検の病理を依頼する時の臨床情報の提供に何が求められているのか理解できるので大変有用だと思う.
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