トピックス
E型肝炎の増加と今後の対策
石井 孝司
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1国立感染症研究所ウイルス第二部
pp.1138-1141
発行日 2016年11月1日
Published Date 2016/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1543206659
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はじめに
E型肝炎は,ヘペウイルス科(Hepeviridae)ヘペウイルス属(Hepevirus)のE型肝炎ウイルス(hepatitis E virus:HEV)の感染による急性肝炎である.1983年,Balayanら1)によって経口伝播型の非A非B型肝炎の病原体として発見され,1990年にReyesら2)によってウイルスcDNA(complementary DNA)がクローニングされ,HEVと命名された.HEVは粒子の直径が約30nmの小型球形のウイルスであり,そのゲノムは約7.2Kbのプラス一本鎖RNA(ribonucleic acid)で5’末端にはcap構造が,3’末端にはポリアデニル酸が付加されている.HEVの遺伝子上には,3つのORF(open reading frame)(ORF1,ORF3およびORF2)が,5’末端から一部重複しながら配列している.ヒトに感染するHEVには,少なくとも4つの遺伝子型(genotype)が存在することが明らかになっている3).
E型肝炎の臨床症状はA型肝炎と類似しているが,潜伏期間は15〜50日,平均6週間で,平均4週間といわれるA型肝炎の潜伏期に比べ,やや長い.E型肝炎の典型的な症状である黄疸は発症後0〜10日目に顕著になる.注意すべきは,発症前から便中にウイルスが排泄されていることで,これはすなわち,まだ無症状の感染者がHEVを伝搬させる危険が存在することを意味する(図1).E型肝炎の1つの特徴は,感染妊婦の死亡率が高いことで,実に20%に達するという報告もある4).
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