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診療行為の業務独占と手足論 医師法第17条は「医師でなければ医業をなしてはならない」と定め,医師でない者が医療行為を行うことを禁止している.これを〈医療(診療)業務の独占〉という.ところが反対に,わが国の憲法は第22条において「誰でも公共の福祉に反しない限り職業を自由に選ぶことができる」ことを定め,基本的人権の一つとして保障していることは,すでにご存じのとおりである.一見この部分が憲法と医師法の間で矛盾しているかに読めるが,医療業務の独占は憲法に違反しないという裁判所の判断がある.その判決はいう.「医師は国民の健康を守る重要な職種であるから厚生大臣の行う国家試験に合格し,絶対的,相対的欠格事由を定め,厳重な規定のもとに医師の資格を与えているものであって,法は医師でない者が医業をなすことを禁止するのは公共の福祉のために当然である」としているのである.とはいっても,医療行為のすべてを医師が行うことは事実上不可能なことであり,明治33年に東京府が制定した看護婦規則の中では早くも「看護婦は主治医の指示を受けることなく治療に関する手術又は投薬をしてはならない」ことを定め,業務独占の緩和策をとってきた.これを受け,初めて大正4年に内務省が国の制度として定めた看護婦規則の中でも「……主治医の指示を得なければ治療器械を使用しまたは医薬品を授与してはならない」などの文言を追加し,事実上診療行為と区別して診療の補助行為を行うことを認めてきたのである.後者制定の背景には診療行為は医師のみの業務と規定しておきながら,医師の指示があれば無資格者が助手的行為を行っても医師法には違反しない,という有名な大審院の「診療行為を補助する手足論判決」(大2.12.8.(れ)大審院判)があったからである.これが昭和23年に制定された保健婦助産婦看護婦法(保助看法)に〈診療の補助〉を定めることのできる根拠となった.
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