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近年,癌遺伝子産物と,細胞増殖因子,その受容体あるいは細胞内情報伝達系との関係が明らかにされ,ヒト消化管における悪性腫瘍の発生・増殖の解明にも少しずつ光が当たるようになってきた.例えば,細胞膜に存在し,ペプチドホルモンなどのセカンド・メッセンジャーであるcAMPを調節するG蛋白と類似し,GDP,GTP結合能とGTPase活性を持つras遺伝子産物であるp21蛋白は,細胞増殖に関与すると考えられ,活性化したc-Ha-rasあるいはc-Ki-rasが,膀胱癌,結腸癌,肺癌などに見いだされている.活性化された場合には,GTPase活性の消失,ホスファジル4,5リン酸の減少,ジアシルグリセロールの増加などが認められる.
最近,Ha-ras p 21蛋白が,ヒト結腸癌に高頻度に発現し,かつそれは癌の深達度と相関するという1).筆者らもヒト胃癌におけるHa-ras p21免疫活性の発現は,早期癌(11.1%)より進行癌(43.8%)に頻発し,また癌表層部より深部で強く,しかもras p 21を有する胃癌は高い転移率(85.2%)を示すことを認めている2).そのうえ,Stage III+IVの胃癌患者でras p21陽性のものは,陰性のものに比べて有意に予後不良である.さらに,ヒトEGF(epidermalgrowth factor)の胃癌における出現も,ras p21と同じく,癌の浸潤度と予後とに密接に相関している3}.しかし,EGF受容体と結合し,EGFと相同性のあるTGFα(transforming growth factor)は,胃癌の初期から出現する.これらの知見は,Ha専ras遺伝子の活性化およびEGF遺伝子の発現が胃癌の浸潤・転移および予後に重要な役割を演じていることを示唆している.
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