今月の臨床 子宮内膜症・腺筋症の外科的治療─機能温存をめざして
卵巣チョコレート嚢胞の機能温存外科治療のコツ
3.チョコレート嚢胞アルコール固定法
鈴木 隆弘
1
,
後藤 優美子
1
,
三上 幹男
1
1東海大学医学部専門診療学系産婦人科
pp.1192-1195
発行日 2010年8月10日
Published Date 2010/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409102444
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
卵巣子宮内膜症性嚢胞(チョコレート嚢胞)は卵巣に発生した子宮内膜症が嚢胞を形成して腫大したものである.子宮内膜症は生殖年齢婦に多く認められる疾患であるため,妊孕性を温存した治療法の選択が必要である.現在,チョコレート嚢胞に対する保存治療としては待機療法,内容吸引術(経腟,腹腔鏡下),アルコール固定術(経腟,腹腔鏡下),嚢胞摘出術,嚢胞内腔蒸散術(腹腔鏡下)が挙げられる.子宮内膜症性不妊が疑われる場合は,癒着剥離や腹膜病変の焼灼,腹腔内洗浄が妊孕性の向上につながるため積極的な腹腔鏡手術の導入が勧められているものの,チョコレート嚢胞に対する処置法の選択については統一した見解が得られていない.腹腔鏡手術時は嚢胞摘出や蒸散術のどちらかを施すことが多い.嚢胞摘出術は病理組織学的診断ができ,比較的再発率が低く,最も普及している方法であるが,正常卵巣組織を損なう可能性も示唆されている1).
アルコール(エタノール)注入固定法は1988年にわが国において赤松ら2)によって最初に報告された方法である.嚢胞内容吸引後にエタノールを嚢胞内に注入すると内側の分泌細胞が変性壊死に至り,再発をおさえる.本法について,再発や妊孕性温存に関してさまざまな検討がなされているものの広く確立した治療法とはなっていない.特に近年指摘されている子宮内膜症と卵巣癌の合併や子宮内膜症の悪性転化の点から組織学的診断の得られない本法を行わない施設も多いようである.
Copyright © 2010, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.